フランケンシュタイン(の怪物)

一般に「フランケンシュタイン(の怪物)」といえばこのような姿をイメージするが、

フランケンシュタインのイラスト(空想上の生物)

このイメージの元となっているのは『フランケンシュタイン』(ジェームズ・ホエール監督、1931年)でボリス・カーロフが演じたこのフランケンシュタイン(の怪物)だろう。

Amazon.co.jp: Frankenstein 1931 (The Classic Movie Monsters Collection Book  2) (English Edition) 電子書籍: Burton, Nige: 洋書

で、実はこの1931年版の前にも『フランケンシュタイン』は映画化されている。

そのときはこんな感じだった。

ファイル:Charles Ogle In Frankenstein 1910.jpg

監督はJ・サール・ドーリーで、フランケンシュタイン(の怪物)を演じたのはチャールズ・オーグル。1931年版と比べると背格好は普通で、体の形がいびつ。ジャケットではなくてぼろきれのようなものを纏っているのも印象的。

こうなると原作者のメアリー・シェリーがどのようにフランケンシュタイン(の怪物)をイメージしていたのか気になるがそれは要調査。

『ザ・チェア〜私は学科長〜』

 『ザ・チェア〜私は学科長〜』(原題"The Chair")というNetflixドラマの存在を知ったのはThe New Yorker Aug. 30thの記事だった。

www.newyorker.com

どうもアメリカの大学の英文科を舞台にしたお仕事コメディらしく、かなり地味な印象を受けるが、上の記事によると大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のクリエイターが制作しており、2億ドルの契約だとか! 一体どんなもんじゃい、ということで早速観てみた。現在シーズン1が公開されており、1話30分×6話なので、わりとすぐ観れる。本棚整理しながら流してました。

 舞台はアイビー・リーグの下位に属する架空の大学。アジア人女性として初めて英文科の学科長に就任した主人公ジユンは、学生数減少の一途を辿る学科を建て直すべく張り切っているが一筋縄ではいかない。着任早々、受講生の少ない老教授たちのリストラを学部長から促される。友達以上恋人未満の同僚ビルはスター教授で学生からの人気はあるものの、妻が死んでから自堕落なトラブルメイカー(二日酔いで出勤したり、間違って妻の出産ビデオを流したり、女子学生の車に乗せてもらったり)になっている。ジユンが期待を寄せる若手ホープで黒人女性のヤスはテニュア(終身在職権)の審査を控えているが、先任教授との折り合いが悪く先行きが怪しい。私生活でもジユンは幼い娘ジュジュ(養子で、ジユンとは異なりヒスパニックのルーツをもつ)との関係で悩んでいる。そんなとき、ビルが授業中にナチス式敬礼をする動画がネットに流出・大炎上し、大学を揺るがす騒動となっていく。

 誇張されているとはいえアメリカの大学の雰囲気がわかるのが面白い。受講者の数に教授の評価が大きく左右されるというのがアメリカらしい。老教授ジョアンがいかに時代遅れかということを示す描写として「学生からの授業評価を気にしたのなんて80年代が最後だわ」という台詞があるのだが、80年代から学生が授業評価をする仕組みがあるのにまず驚いた。

 ジユンを演じるサンドラ・オーの評価が高いが、このジョアンのキャラクターもいい。チョーサーを専門とする昔気質の女性教授で、学生からの人気は低いが、実はかなりパンクな性格で、性的にアクティブな様子を見せたり、誹謗中傷的な授業評価をつけた学生の居場所をハッキングして突き止めチョーサーがいかに面白いかをまくし立てたりする。「モダニズムと死」なんて授業をやっているビルの人間的どうしようもなさと好対照。やっぱりモダニズムなんかやってるやつはダメだ、チョーサーを読もう。

 特に印象的なのはジュジュがビルの亡き妻の魂を呼び戻す儀式をする場面で、今シーズンのクライマックスの一つだろう。テーマの面でも、大学の商業化、職場・大学・家庭での人種差別・性差別の問題など現代社会全体に通ずる問題に幅広く意欲的に取り組んでいるものの、シーズン1だけでは消化不良で十分な解決がされているとは言い難い。特に、単なる顧客ではなく「学生」として学生と向き合い対話することの重要さを訴えながらも、教授の世界にばかり目がいって学生たちのキャラクターが一向に見えてこなかった点は不満が残る。これらの問いの答えは来るべきシリーズに託されている。

Oh my Glob!:アドベンチャー・タイムの「神」

 

"Oh my Glob!"

--Lampy Space Princess 

  LSPの口ぐせ"Oh my Glob!"といえば、『アドベンチャー・タイム』屈指の名台詞である。

  『アドベンチャー・タイム』(以下、AT)は「神」(God)に対する言及を注意深く避ける。典型的な例が"Oh my Glob!"だ。登場人物たちは"Oh my God!" の代わりに"Oh my Glob!"と叫ぶ。*1*2

 終末戦争(「マッシュルーム戦争」)で文明が崩壊し、キリスト教の信仰が失われたからではない。そもそも作中世界には創造主としての神が存在しないのだ。世界を創造したのは神ではない。ではだれなのか。答えは毎話冒頭にきちんと示されている。

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『アドベンチャー・タイム』タイトル

 ロゴの下を見てほしい。”CREATED BY PENDLETON WARD”と書かれている。つまり創造主(creator)はPendleton Ward*3なのである。世界は彼によって創造(create)されたのだ。 *4

 ふざけているわけでも、屁理屈を捏ねているわけでもない。フィクションであることに自覚的なATにおいては、作者と作品、神と世界の関係性がすでに作中に織り込まれているのである。

 キャラクターたちが勝手に自分たちの二次創作をはじめ、その二次創作内のキャラクターたちが三次創作をはじめてしまうATにおいて、フィクションとはなにかという問いは避けては通れない。そしてそれは失われたものと記憶と孤独をめぐる作品全体のテーマへと結実していくのである。

*1:ちなみにグロブ(Glob)というのは実際に登場するキャラクター。Grob Gob Glob Grod | Adventure Time Wiki | FANDOM powered by Wikia

*2:ちなみに神に直接言及しないのは日常英語でも行われる慣習で、"Oh my gosh!"などと言い換える。

*3:aka Pen。ATのクリエイター。LSPの声優も務める。ひげもじゃで大きくてやさしそう。ホームページ: http://www.buenothebear.com. Twitter: @buenothebear

*4:「ペン」"Pen"によって「剣」(=フィン)が創造された、というような話はよくわからなくなってくるので割愛。

冒険のおわり 世界のはじまり ーー"Come Along With Me"に寄せて

最終回を観たぞ

『アドベンチャー・タイム』の最終回「冒険は続いていく」(”Come Along With Me”)を観ました。ので感想を書きます。ネタバレはあります。俺は観たぞ、君も観ろ。

 

なんでいまさら

 こないだ観たから。日本初放送時にいろいろあって見逃し、どういうわけかイギリスに引っ越すことになったりしてなんやかんや観れなかったのですが、先日Amazonで購入、やっと観られました。やったね。

 なので以下は英語版の感想です。これはぼくが観たやつのリンクです。

www.amazon.co.uk

 

感想というかなんというか

”It's okay, Jake. You always try to protect me and Finn. But sometimes we are going to get hurt. How about today, you let me be the papa? ”

ーーBMO, ”Come Along With Me”

 わたしたちは少しずつそのときが近づくのを感じていました。フィンがフレイムとキスしたとき、腕を失ったとき、17歳の誕生日を迎えたとき。あるいはジェイクが父となったとき、20代に別れを告げたとき。すべては少しずつ変わっていました。”Everything stays, but it still changes” いみじくもレベッカ・シュガーの言った通りです。しかしツリーハウスが崩れたとき、そのときは来ました。決定的な瞬間を、幼年期の終わりを、わたしたちは突きつけられました。バブルガムの支配から、キム・キル・ワンの資本主義からわたしたちを解放してくれたツリーハウスはなくなりました。”Timeless”と刻まれた時計は砕け、時の流れが無情に押し寄せてきたのです。すべては失われました。ぼくは泣きました。絶句して立ちすくむジェイクを見て泣きました。二度と帰らない冒険の時間に泣きました。

 しかしBMOは言いました。自分は父になると。ジェイクの「子」であるBMOがジェイクのパパになると言いました。すべてが変わりました。わたしたちと『アドベンチャー・タイム』の間の現実と虚構を隔てる壁は崩れ去りました。バブルガムとガムボルドは、創造主と被造物は和解しました。「あんたのせいだ!」(”You made me!”)という苦悶の叫びは鎮まりました。世界とわたしを隔てていた深い溝はなくなりました。過去も現在も未来もなくなりました。『アドベンチャー・タイム』だけがありました。

 ツリーハウスはもうないけれど、フィンとジェイクはもういないけれど、冒険の時間はもう終わったけれど、いつでもあのときに戻ることができます。そしてシャーミーが剣を掲げたとき、新しい冒険がいつでも待っていることに気がつくのです。

 

Adventure Time | Rebecca Sugar Performs 'Time Adventure' | Cartoon Network

 

2018年に観た映画 新作

2018年に映画館で観た新作映画の感想をまとめました。もしかしたら今年公開じゃないのが混じってるかもしれない。気持ちです。観た順番に並べています。前の方ほど雑なのはご愛嬌。

 

 

バーフバリ 王の凱旋

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 前作はまだ観ていない。賑やかで楽しい。

 

キングスマン:ゴールデン・サークル

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 夜更かしして 前作を予習したら寝不足になって後半寝てしまった。教会での殺戮シーンは最高だった。

 

スリー・ビルボード

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 傑作。絶対にミズーリには住みたくねえと思わせてくれる作品。フランシス・マクドーマンド強すぎ怖すぎ。

 

シェイプオブウォーター

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 とても好きな映画。プラハの映画館でチェコ語字幕で観たので半分くらいしか話を理解していない可能性がある。とても小さな劇場で、下ネタがドッカンドッカン受けていた。なんならしんみりしたシーンですらずっとクスクス笑ってるカップルがいてちょっとイライラした。映画館で立ち尽くす魚人の姿を見たときには、「おれやんけ……」と思って胸が熱くなった。異国の映画館で観るのにぴったりな作品だったのだと今から思う。

 

勝手にふるえてろ

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 傑作。松岡茉優渡辺大知くん(なんか分からんがくんを付けたくなってしまう)も初めて観たが好きになった。いろんなところが丁寧に作ってあって上手いなあと思う。「お前が誰も見てへん以上、誰もお前を見てへんのやで」と言われると我が身を省みて「はい、すみません」と言うしかない。しかし実際のところ松岡茉優でもなければ2みたいなやつはいないのであって、そこに地獄があるような気もするが、それはそれとしていい映画。

 

トゥームレイダー ファーストミッション

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馬鹿と狂人しか出てこないので白けてしまった映画。主人公の父親は本当に終始気が狂っていて怖い。

 

グレイテスト・ショーマン

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醜悪だと感じた。ハリウッドの歌と踊りを利用して、フリークス・ショーの孕む色々な問題(そして本当に向き合うべき問題)から逃げているように思う。

 

リベリアの白い血    

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むしゃくしゃして映画館に行ったらかかっていたので観た。とてもいい映画。リベリアのゴム園で働く男がアメリカに出稼ぎに行く話。男の後ろを常に内戦時代の暴力の影が追う。

 

パディントン2

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 最高。ほんわか熊映画かと思いきや、唐突に狂気と暴力が侵食してくる。いい。こないだ先輩が、刑務所が出てくる映画にハズレなし、と言っていた。その通りだと思う。

 前作からの繰り返し演出が多用されていて、続けて観るととても気持ちよくなれる。

 

リズと青い鳥

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やばい映画。冒頭で「この情報密度と緊張感で最後までいかれたら死んでしまう……」と思っていたら本当にそのまま最後まで行ったので死んだ。劇場中からオタクのすすり泣きが聞こえてびっくりした。自分の頰が温かいので触れてみると濡れていた。気がつくと僕も泣いていた。

 

レディ・プレイヤー1

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IMAX 3Dで観たので本当にゲーム内世界にいるような没入感があった。映像はとにかく素晴らしい。主人公が有り余る金を手に美女を侍らせて「リアル最高〜〜。お前らもゲームばっかしてんなよ」と言ってくるラストには、はぁ???となるけど。

 

霊的ボリシェヴィキ

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「実験に水を差すような言った参加者が霊媒師にどつかれて、『こういう時は歌いましょう!』ってみんなでボリシェビキ党歌を合唱してタイトルクレジットどどん、でニコニコになる」と鑑賞直後の自分はツイートしている。

 

パティ・ケイク$

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丁寧に作られた楽しいいい映画。それはそれとして主人公があまりにもいい子過ぎてなんとなく物足りない。ミュージシャンにはラリってホテルの部屋とか破壊してほしい。完全に好みの問題ですが。上の曲はかっこいいのでぜひ聴いてほしい。

 

アベンジャーズ/インフィニティウォー

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あまり熱心にシリーズを追っているわけではないが、観た。えらいことになっていた。あのスピード感であの数のヒーローを処理していく手際はすごい。

 

君の名前で僕を呼んで

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なぜか自分から半径5メートルくらいのところで大ブームが巻き起こった作品。美しい夏の北イタリアでえっちなことをする。スフィアン・スティーヴンスをはじめとして音楽もすごくいい。

 

犬ヶ島

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ぼくのかんがえたかっこいいニッポンで犬が暴れる。かっこいい。

 

ラッカは静かに虐殺されている

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命からがらシリアを脱出してたどり着いた憧れのドイツで移民排斥デモに出くわすシーンが本当に辛かった。

 

孤狼の血

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サイコー。和太鼓がドンドコ鳴ってるなかカチコミかけるシーンがよかった。役所広司松坂桃李もいい。

 

万引き家族

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とてもいい映画。花火の撮り方がうめえ。海水浴のシーンを最初に撮ったという話も面白い。樹木希林さんのご冥福をお祈りします。

 

ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー

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あまり面白くなかったが、褒めている人もよく見るのでよく分からない。序盤のカーチェイスがチンタラしてて迫力ないし、そもそもなんでスターウォーズで地べたを這いずり回ってるのか分からないし、がっかりしてしまった。

 

ウィンド・リバー

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傑作。どうしようもない真実のしょうもなさと向き合う辛さ。

 

ミッション:インポッシブル/フォールアウト

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いまさら言うまでもないけどトム・クルーズのアクションがすごすぎる。僕が言うまでもないのであまり言いません。パリのおまわりさん撃つのをあれだけためらったイーサンが直後に悪役三人を一瞬でぶっ殺したの観て「こいつ狂ってんな……」と改めて感じた。たしかに理屈の上では理解できるのだが……。イーサン・ハントは狂っている。

 

ファントム・スレッド

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ごはんに毒を入れることで愛を確めあう夫婦の話。いろんな愛の形があるね。朝の身支度のシーンがいい。

 

レディ・バード

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シャラメは早漏。シャナメだと思ってたらシャラメだった。ごめんな。

 

スターリンの葬送狂騒曲

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楽しい映画。史実に詳しい人はあれやこれやに引っかかるようだが、僕はなんにも知らないので、人がバタバタ殺されていくのをゲラゲラ笑いながら観ていた。

 

大人のためのグリム童話 手をなくした少女

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全編手描きアニメーションで独特の雰囲気をもつ実験的な作品。監督自身は「クリプトキノグラフィー」呼ぶ手法らしい。お話そのものにはあまり乗れなかった。邦題はなんとかならんのか。

 

カメラを止めるな

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笑えるし、映画っていいものだなあというのをひしひしと感じられる作品なのだが、いかんせん前フリが長い。寝不足だったので辛かった(お前が悪い)。

 

寝ても覚めても

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好みではない、というところに尽きるか。とはいえ優れた作品だと思う。東出昌大(善)と東出昌大(悪)、出会ってはいけないはずの二人が出会ってしまう----というかなり終盤までの筋が最初から全部見えている。なのでストーリーの力というのがあまりないにも関わらず、それでも画面に惹きつけられてまったく退屈することがないというのはすごい。どういう仕組みなんだ。わけわがわからない。とはいえ好みではないのだが。

 

ボヘミアン・ラプソディ

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泣きました。号泣でした。ライブエイド再現シーンに向けてエモーションがどんどん高められていく構成になっている。ライムスター宇多丸氏が「強度がある」という言い方をしていて、上手い表現だなあと思う。ライブエイドでのエモーションの爆発という一点にすべてを集中させていて、そのことによる瑕疵はいろいろあるんだけど、非常に強い感動を生むことに成功していると思う。

 

個人的に、ミュージシャン成り上がりストーリーにものすごい脆弱性がある。そういうわけなのでライブエイドのシーンは泣いてしまいますよ、やっぱり。

 

バッド・ジーニアス -危険な天才たち

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金にがめついドS天才美少女ってめちゃいいよね。

 

ド頭からずっと過剰演出、異常な画面でゲラゲラ笑ってた。序盤は少し重たく感じたところもあったけどクライマックスのサスペンスの畳み掛けが最高。音響の使い方も上手い。

学力の格差を、経済力の格差と並置してるところが面白く感じた。パットたちはただバカな金持ちというわけではなくて、学力の欠如はかなり切実な問題としてある。というふうに読める気がするのだけれどどうですか?

 

斬、 

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冒頭、刀鍛冶のシーンがとても音楽的で、もうグッとくる。刀の効果音が丁寧で、「ジャキッ」とか「キーン」とかすごく重そうで硬そうな音がする。そうすると刀がものすごく怖そうに感じられる。そこから暴力とか性の問題とかに切り込んでいく。ライトセーバーが軽いのに怖いのは何でかなとかいろいろ考えてしまう。